経済関連

MMT(現代貨幣理論)とは経済・金融における革命なのか【リフレ派との違いやハイパーインフレについても】

MMTが導き出す結論は、通俗観念に染まった多くの人々にとってショッキングなものである。最も重要なのは、MMTがオーソドックスな考え方に対して異議を唱えていることだ。

L・ランダル・レイ『MMT 現代貨幣理論入門』

昨今、にわかに勢力を強めているように思えるMMT。

「日本はどれだけ借金しても破綻しない」という結論部分が独り歩きしている感があるので、今回の記事ではあらためてMMTについて簡単にまとめてみたいと思います。

(なお、私自身はMMTを採用していませんが、なるべくフェアな記事を心がけています)

MMTとはどういう理論か

MMTによれば、論理的に税金は政府の財源ではありえないし、国債も資金調達手段ではありえない。増税の目的は通貨に対する需要を増やすこと、国債の目的は望ましい金利水準を達成することである。

島倉 原『MMTが日本に「公益民主主義」をもたらす理由

主な主張

MMTの主張をまとめると、以下のようになります。

  1. 自国通貨建て国債では破綻しない
  2. 経済の問題は財政政策で解決すべき
  3. 政府の借金は民間の資産だから、国債は大量に発行すべき
  4. インフレはコントロールできる

これらを少し細かく見ていきましょう。

【自国通貨建て国債では破綻しない】

緊縮財政を推奨する財務省も認めていることだが、いくら借金が増えようが(物理的には無限に)国債を発行できるのだから、破綻のしようがない

ギリシャの破綻は通貨と国債を自由にできないから。

アルゼンチンの破綻は外債だから。

【経済の問題は財政政策で解決すべき】

借金で破綻しないのだから、必要ならどんどん借金すべし。

基本的には、

需要<供給 なら デフレ
需要>供給 なら インフレ

という関係が成り立つので、デフレ下(低インフレ下)の日本では、国がどんどん借金をしてお金をばらまく必要がある。

デフレ下では、お金の価値が上がっていくので、「投資をしないでお金を貯めこむ(個人では貯金、企業では内部留保)」が合理的な行動になってしまう。

これによってさらにデフレが進むので、デフレは民間の力では脱出できず、政府の力が必要となる。

【政府の借金は民間の資産だから、国債は大量に発行すべき】

政府の借金は民間の資産であり、逆に言うと、政府の黒字は民間の赤字である(貨幣循環理論)。

なので、財政黒字化を目指してはいけない

財政(政府)が黒字というのは「歳入>歳出」である。

これはつまり「民間から奪う金>民間に渡す金」であるから、いずれ民間の金がなくなる。

また、国は常に先に支出(借金)をしないとならない。

なぜなら、国民が払う税金は国の支出が元手になっているからだ。

つまり、財政は赤字であるのが正しい姿である。

【インフレはコントロールできる】

インフレ・デフレは需給ギャップで決まるから、財政支出を進めていくと、いずれ適度なインフレになる(具体的には完全雇用が達成された時点で)。

ここで財政支出を止めるか、必要であれば増税をすれば良いので、インフレは必ずコントロールできる。

また、需要が増大している局面では供給能力も上がっているので、市場の機能的にもスタビライザー的にインフレに歯止めがかかる。

ゆえにハイパーインフレは起きようがない

強いてあげれば「戦争」「内乱」「大災害」などで、供給が著しく制限される場面だけ。

以上が、MMTの主な主張になります。

【MMTに対するよくある誤解】

「財政支出が無限にできるなら、税金ゼロの無税国家が誕生してしまう」という財政緊縮派からの反論があるが、MMTは税金の存在を貨幣の価値担保としているので、この反論は成り立たない。

国民にとって法定通貨が「納税義務の解消手段」としての価値をもつことになります。納税義務を果たすためには、その法定通貨を手に入れなければなりませんからね。ここに、その貨幣に対する需要が生まれるわけです。

中野剛志『【マネーの本質】なぜ、単なる「紙切れ」の紙幣で買い物ができるのか?

主流派経済学への批判

MMTは主流派経済学と呼ばれる、現在の経済政策決定のプロセスの中心となっている考え方に異を唱えています。

主流派経済学は金融政策を中心に経済をマクロで数式的に考え、「人や企業は市場において、みな合理的に選択し行動する」ということが前提になっています。

例えば、「セイの法則」と呼ばれる主流派経済学の前提条件がありますが、これは「供給が需要を生み出す(モノを作れば必ず売れる)」という内容で、当然実際にそんなことは起きません。

経済をより深く理解するために数式は必要です。

そしてそのために前提条件も必要ですが、経済学は万能ではありません。

数式で全てを表せる数学や物理学と違って、経済はとても複雑で不安定だからです。

このこと自体は、反MMTの人も認めています。

いずれにせよ、「将来の成長期待」「競争環境」「技術革新」「金融規制」さらには「社会全体のセンチメント」まで実に多岐にわたる要素が影響するのである。こういった複雑な要素を捨象して、「財政政策がすべてだ」「いや金融政策だ」と経済学者や評論家たちが主張をぶつけ合っている姿自体があまりにも現実離れしており、空想世界に生きているように見える。

森田長太郎『MMTも主流派経済学もどっちもどっちな理由

ちなみに、既存の経済学に対するアンチテーゼとしては、「行動経済学」というジャンルも力をつけています。

リフレ派との違い

MMTと似た理論としてリフレーション政策(リフレ派)というものがあります。

リフレーション政策自体は主流派経済学の範疇です。

似ている点と異なる点をカンタンに確認しましょう。

似ている点

  • 緊縮財政は不要である
  • どんどん国債を発行してお金を増やすべき

違う点(リフレ目線)

  • 財政規律自体はいずれ必要
  • 財政政策ではなく、あくまで金融政策が中心
  • 数理的定義が重要(数式で説明できることが第一)

MMTは日本で実験中?成功例?

よく言われるのが「MMTは日本で実験中」だという話ですが、これは明確に誤りです。

「実験中」あるいは「成功例」だという主張は、主にステファニー・ケルトン教授(MMT提唱者の1人)の「日本はMMTが数十年、主張してきたことが正しいことを証明した」という発言を受けてのモノです。

しかし、日本では麻生経産相が否定しているように、MMTは採用していません。

やっていることがMMT的(大量の国債発行による財政赤字)だとしても、

  • 将来健全化する意思があるかないか
  • 財政規律を守るつもりがあるかないか

というのは、市場参加者へのメッセージとして、与える影響が決定的に違います。

MMTに対する(主流派からの)主な批判

以下のMMTの「主な主張」に対応して、それぞれ批判・反論があります。

  1. 自国通貨建て国債では破綻しない
  2. 経済の問題は財政政策で解決すべき
  3. 政府の借金は民間の資産だから、国債は大量に発行すべき
  4. インフレはコントロールできる

「自国通貨建て国債では破綻しない」への反論

  • 確かに国債を無限発行(日銀引受け)すれば「財政破綻」自体はしない
  • しかし、ハイパーインフレの可能性はある
  • この財政ファイナンスはもはや計画経済(社会主義)であり、自由主義的な発展は望めない

経済の問題は財政政策で解決すべき

  • 市場に委ねる金融政策でなく、財政政策では効率性や健全性が阻害される可能性がある
  • 財政政策は政権の権力であるから、人気取りで歯止めが利かなくなったり、癒着の温床になる恐れがある

政府の借金は民間の資産だから、国債は大量に発行すべき

  • 資産が海外へ流出すれば民間の資産になるとは限らない
  • 民間の資産が増えただけでは望ましい景気回復にならず、そもそも適切な経済成長と投資マインドが必要
  • 民間の資産増は、市場経済的に民間内の信用創造でやるべき

インフレはコントロールできる

  • コントロールできるのは平時だけで、「供給破壊」以外にも突発的事象でハイパーインフレになる可能性がある
  • どの程度支出をすればどの程度インフレになるのかの数理的指標がない
  • 国債価格はコントロールできても、信用棄損で円安をコントロールできない可能性がある
  • そもそも人間は経済をコントロールできない(いつの時代もバブルや金融危機が必ず起きるのが証拠)

【上級者向け】

MMTは経済を「過度に楽観視・単純化」したものであり、実現不能だ(結局通常の財政政策の範疇に収まる)ということを、マクロ経済学的に説明しているサイトのご紹介です。

経済学の知識、数学の素養がないと少し難解かもしれませんが、主張は読み取れるはずです。

事実として、MMTは多くの経済学者・政治家に認められていません。

「認められていないから、絶対に間違っている」ということはないですが、立場としてはそうなります。

これを逆手とった「MMTは地動説、主流派は天動説」という主張もありますが、当然説得力はなく、客観的にはむしろMMTの立場を危うくしているように感じます。

その他MMTにまつわる関連情報

ハイパーインフレの可能性について

これに関しては、別記事にて詳細にまとめていますので、良ければそちらをご覧ください。

理論の起源

MMTの起源は、ケインズ経済学で有名なジョン・メイナード・ケインズに見ることができます。

ケインズの最も有名で重要な主張は、

有効需要の創出

です。

アダムスミス以来、市場には「見えざる手」があるのだから、なるべくあるがままにすべきである、という考え方が経済学の中心でした。

しかし、不況の世の中において、

  • (先ほども紹介した)「モノを作れば必ず売れる」という前提は間違っていて
  • モノが売れるためには、人々の眠っている需要を生み出さないといけない=有効需要の創出

とケインズは考えました。

そのために積極的に財政政策を行って、「大きな政府」を実現しなければならない、というのがケインズ経済学です。

なお、

  • 「大きな政府」は基本的に平等を実現するものですから経済的左派
  • 「小さな政府」は競争を推奨するものですから経済的右派

とみなされるのが通例です。

実際、MMTは究極の「大きな政府」ですから、「財政のことなんか置いといて、まずは国民を助けろよ」というような論理と非常に相性が良いです。

日本で言えば、れいわ新選組の山本太郎党首などが分かりやすい例かと思います。

(関係ないですが、バリバリの左派なのになぜ「新選組」という究極の保守の名前が付いているのか、いまだに謎です……)

もっともMMTの提唱者自体は右派左派どちらでも使える、としているのですが、現実問題として左派しか使っていませんし、提唱者自身「自分が左寄りだ」ということは認めています。

本書の目的は、特定の政策を押しつけることではない。本書は、「大きな政府」支持者も「小さな政府」支持者も利用可能である。私自身が進歩主義寄りなのはつとに有名だが、MMT自体は中立的である。

L・ランダル・レイ『MMT 現代貨幣理論入門』

なぜ流行っているのか

実際の政治経済の舞台ではあまり議論の対象にあがることのないMMTですが、若者の間やWEB上、Twitter上などでは非常に強力な支持層がいることが分かります。

Twitterなどを見れば分かりますが、彼らは非常に「盲目的」です。

財政規律派のアカウントを訪れては、口さがなく罵っていく(議論になっていない)というケースも往々にしてあります。

この現象をどう説明したらいいのか。

基本的に、WEBで声が大きい層というのは「主流派」ではないことがよくあるケースです。

彼らの考え方の根底に、「エリートに対するルサンチマン」があることは否めません。

  • 国会議員は給料が高すぎる
  • 東大卒は学歴だけで使えない
  • 大企業や官僚はバカばかり

これらを統計データや豊富な体験に基づいて論理展開していれば説得力があるのですが、基本的には感情から導き出された結論であることがほとんどです。

(国会議員の収入だけ詳しくて支出項目を全く知らない、知り合いに東大卒や大企業が少ない、など)

そして、(非主流なので)学力的に少し落ちる場合もあり、物事を比較して判断するという行為が苦手なケースもあります(※もちろんそうでないケースもあります)。

根拠データも、人がまとめたものを見るだけなので、反対理論や別角度からの検証というものを重要視しません。

この場合、一度信じたモノが「自分自身の価値」となり、意図を超えて絶対的な存在になっていってしまいます。

  • テレビや新聞は真実を報じない
  • 電通は韓国とつながっていて、日本を悪くしようとしている
  • 自分の考えと違うもの(フィンテックやAI革命など)は不完全だから使えない

もっとも、メインストリーム外の派閥が過激化するということ自体は珍しいことではありません(過激だからメインストリーム外にいる、という見方もできますが)。

例えば戦前の「統制派・皇道派」の争いに、この現象を見ることができます。

MMTはこうした

  • 自分は本当は優秀だ
  • 自分を大切にしろ
  • 正しいのは絶対的に自分だ

というような人たちと相性が良いです。

なぜなら、

  • 国家というエリートが財政を牛耳っている
  • しかし、エリートはバカである
  • そして、そのせいで自分は苦労している
  • MMTという真実に気付いた自分は優秀である

という主張が成り立つからです。

もちろん、このこと自体はMMT自体の価値を下げるものではありませんし、MMTの正当性とも関係ありません。

しかし、MMT的な財政論や貨幣論の広まりに逆効果を与えている、というのは非常に残念なものがあります。

個人的には、MMTの結論はともかく、議論の過程は非常に素晴らしいものがあると感じています。

このことに限りませんが、WEB上、もちろんオフライン下でも、適切で建設的な議論が進むことを願ってやみません。

代表的論者

MMTの代表的論者を紹介します。

中野剛志

東大卒→通産省(経産省)官僚→京大准教授→経済評論家

思想的には反グローバル化の保守主義。

私個人としては、相反する考えを持っているのですが、MMT推進派の中では最も議論が洗練されていて、非常に信頼のおける好きな論客です。

著書の印税で被災地へ寄付するなど、現行が一致している保守。

参考:DIAMOND online『中野剛志さんに「MMTっておかしくないですか?」と聞いてみた

藤井聡

京大・大学院卒(工学部)→京大教授(一時、内閣官房参与)

土木工学出身で人文社会科学にも明るく、バックグラウンドが面白い。

一緒に酒を飲んだら面白そうなおっちゃんというイメージです。笑

参考:講義資料『MMTが導く政策転換

三橋貴明(本名:中村貴司)

東京都立大→一般企業数社勤務→独立

一般のMMT派から最も支持されている論客で、Twitter上での財政論議は、大体この人の理論(YouTube・ブログ)が元になっています(悪く言えば受け売り)。

嫌韓的な論説で言論デビューしたこともあり、上で説明した「MMT支持層」を徹底的に煽っていくスタイルをとっています。

中野さんと違って、個人的には好まないタイプです。笑

  • 2ちゃんねるでナショナリズムを煽る形で評論家デビュー
  • 嫌韓本を本名を使わずに出している
  • アベノミクス賛同を撤回している
  • 「MMTが唯一の真実」的な論調で支持層を煽る
  • (個人的に)論拠に説得力を感じない場面が多い
  • 十数年で転職を繰り返す(これ自体は問題ないが、他の要素と絡むと怪しく感じる)

参考:公式ブログ『新世紀のビッグブラザーへ

山本太郎

れいわ新選組党首。元芸能人。

基本的に論説が無茶苦茶だと感じることが多いです。笑

学術的にMMTを信じているというより、やりたいことが無限にあるからMMTを採用している感。

ただし、自身が票を稼いで重度障害者を国会に送り込む(自身は落選)など、プレゼンス戦略には目を見張るものがあると思います。

ステファニー・ケルトン

MMT提唱者のひとり。

大学教授とは思えないブロンド美女で、良くも悪くもMMTのアイコン的存在になっています。

出典:https://note.com/tagomago712/n/nd87dc3780b97

L・ランダル・レイ

現時点で唯一と言っても良い、MMTに関して体系的にまとめた書籍『MMT 現代貨幣理論入門』の著者。

(おまけ)高橋洋一

東大理学部卒→経済学部卒→大蔵省(財務省)官僚→内閣参事官→大学教授

リフレ派の代表的論客で、東大数学科出身ということもあり、数理モデルを非常に重要視しています。

MMTに関しては「数式がないから論外」「MMT派に数理モデルを聞いたら俺と同じだというから、それならリフレ派」的な立ち位置を取っています。

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